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大阪地方裁判所 昭和60年(行ウ)64号 判決 1988年3月30日

大阪市西淀川区佃一丁目四番二五号

原告

松尾時正

右訴訟代理人弁護士

間瀬場猛

西枝攻

海川道郎

大阪市西淀川区野里三丁目三番三号

被告

西淀川税務署長

北山忠男

右指定代理人

佐藤明

柳原孟

曽根健次

高田安三

田中猛司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和五八年三月一一日付で原告の昭和五四年分ないし昭和五六年分の所得税についてした更正処分並びに昭和五五年分及び昭和五六年分の所得税についてした過少申告加算税の賦課決定処分のうち、所得金額が昭和五四年分については一八四万五一三九円、昭和五五年分については一九六万一三二〇円、昭和五六年分については二〇一万五五八三円を超える部分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、鉄工業を営むものであるが、昭和五四年ないし昭和五六年の各年分(以下「係争各年分」という。)の所得税について、別表一の確定申告欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は、別表一の更正欄記載のとおりの更正処分(係争各年分)及び過少申告加算税(昭和五五年分及び昭和五六年分)の賦課決定処分(以下、右各更正処分と過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各処分」という。)をした。

2  そこで、原告は、昭和五八年五月八日、被告に対し、異議申立をしたところ、被告は、同年七月一一日、いずれも異議棄却(但し、昭和五四年分の過少申告加算税の賦課決定処分については異議却下)の決定をしたので、原告は更に同月一五日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和六〇年五月二〇日、審査請求棄却(但し、昭和五四年分の過少申告加算税の賦課決定処分については審査請求却下)の裁決をし、右裁決は、同年六月七日原告に送達された。

3  しかし、被告がした本件各処分は、次のとおり、手続的にも内容的にも違法である。

(一) 手続的違法

更正処分は、税務法規の執行として適正かつ平等になされなければならないにもかかわらず、被告は、原告が、西淀民主商工会の会員であることから、右商工会の弱体化を図る目的をもつて、原告に対する税務調査を開始することとし、昭和五八年一月一七日、被告の部下職員が、突然原告方事業所に臨場し、調査理由の開示をなすことなく、原告に帳簿等の提示を要求し、原告が、右事業所は親会社内に所在し、説明には不適切な場所であること、しかも帳簿等は、そこにはなく右商工会に預けてあること、右商工会は、原告の記帳補助をしており、その事務局の説明により申告内容を明らかにすると答えたところ、被告の部下職員は、右申出を拒絶して帰り、その後の調査の際も、右商工会事務所における事務局員の立会による帳簿等の開示、申告内容の説明を拒絶するとともに、調査理由を全く開示せず、一方的に反面調査をし、推計による更正処分をしたものであり、このような違法な税務調査手続に基づく本件各処分は、違法である。

(二) 被告がした本件各処分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法である。

4  よつて、原告は、被告に対し、本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実は否認し、その主張は争う。

三  被告の主張

1  本件各処分に至る経緯及び手続の適法性

(一) 原告が、被告に提出した係争各年分の所得税の確定申告書には、所得金額が記載されているだけで、売上金額及び必要経費の記載がなかつたことから、被告は、原告の係争各年分の申告にかかる所得金額が適正なものか否かを確認するため、昭和五八年一月一七日、部下職員を原告の事業所に臨場させ、来意を告げたうえ、原告に対し、係争各年分の所得金額算定の基礎となるべき帳簿書類及び領収書等の原始記録の提示並びに事業内容の説明を求めたが、原告は、税務署員が来たらすぐに民主商工会に連絡するようにいわれている旨及び右帳簿書類等は、すべて民主商工会に預けてある旨申立てた。そこで、右部下職員は、同月一九日に再度事業所に臨場するので、帳簿書類等を取り寄せておくよう申入れたところ、原告は、右要請を了承したが、その後数回にわたり、部下職員が、右事業所に臨場しても、調査理由の開示を求めたうえ、右書類等は、民主商工会に預けたままであるとして、その事務局で調査するよう要求し、さらに第三者の立会のない所での調査には応ずる意思がないなどと言明したため、被告は、やむを得ず、原告の取引先等を調査し、その調査結果により把握した売上金額に基づいて、推計により係争各年分の原告の所得金額を算定したところ、各年分とも原告の申告額を上回つたため、本件各処分をした。

(二) したがつて、被告の本件税務調査及び推計課税の手続に何ら違法な点はなく、また本件で推計課税の必要性があつたことは明らかである。

2  事業所得金額

原告の係争各年分の事業所得金額は、次のとおりであり、その明細は、別表二記載のとおりであつて、右事業所得金額の範囲内でなされた本件各処分には、何ら違法はない。

(一) 昭和五四年分 二九四万一〇一一円

(二) 昭和五五年分 三九四万四六四〇円

(三) 昭和五六年分 四四〇万三四二七円

3  事業所得金額の内訳

(一) 売上金額

原告の係争各年分の売上金額は、原告の事業所が所在する尼崎市東海岸町一番地の五七の協和鉄工株式会社(以下「協和鉄工」という。)に対するものだけであつて、協和鉄工から太陽神戸銀行武庫川支店の原告名義の普通預金口座に振込まれた金額と、協和鉄工においてその振込金額の計算過程で差引かれた原告及び原告の従業員に係る食券代、雇用保険料等(以下「食券代等」という。)との合計額で、次のとおりであり、その内訳は、別表三記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 一四九一万八〇七九円

(2) 昭和五五年分 一六九三万二一一二円

(3) 昭和五六年分 一七二二万八三四八円

(二) 算出所得金額

原告の係争各年分の算出所得金額は、前記(一)の原告の各年分の売上金額に、原告と同種の事業を営む同業者五名(以下「同業者」という。)の当該各年分の所得率(売上金額から雇人給料賃金、外注費及び一般経費の各金額を控除した金額の売上金額に対する割合)の平均値(以下「平均所得率」という。)である昭和五四年分については、二五・〇一パーセント、昭和五五年分については、二八・三七パーセント、昭和五六年分については、二八・七四パーセントを乗じて算出したもので、その金額は、次のとおりであつて、同業者の平均所得率の算出根拠は、別表四ないし六記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 三七三万一〇一一円

(2) 昭和五五年分 四八〇万三六四〇円

(3) 昭和五六年分 四九五万一四二七円

(三) 特別経費(駐車料及び家賃)

原告の係争各年分の特別経費は、松本晃に支払つた月決め駐車料及び八木幸に支払つた従業員宿舎の家賃であり、その金額は次のとおりであり、その内訳は、別表七記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 三九万円

(2) 昭和五五年分 四五万九〇〇〇円

(3) 昭和五六年分 一四万八〇〇〇円

(四) 事業専従者控除

係争各年分の事業専従者控除額は、原告が右各年分の確定申告書に記載した、原告の妻松尾早苗に係るものであり、係争各年分とも四〇万円である。

4  推計の合理性について

被告は、原告の係争各年分の所得金額を推計するに当り、同業者の平均所得率を適用したが、同業者の選定の経緯及び推計の合理性の存在については次のとおりである。

(一) 大阪国税局長は、原告の事業所を管轄する尼崎税務署長に対し、事業所を右税務署管内に有し、青色申告書によつて所得税の確定申告をしている者で、係争各年分を通じて、次のすべての基準に該当する同業者を抽出するよう通達指示したところ、別表四ないし六記載のとおり、係争各年分とも五名の該当者があつた。

(1) 鉄工業を営んでいること。

(2) 他の業種目を兼業していないこと。

(3) 材料仕入がないこと。

(4) 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

(5) 自己の工場を有しないこと。

(6) 旋盤、ボール盤等の機械を有しないこと。

(7) 専従者が配偶者のみ又はいないこと。

(8) 年間の売上金額が八〇〇万円以上三〇〇〇万円未満であること。

右売上金額の範囲は、事業規模の類似性を担保するため、年間の売上金額が、原告の係争各年分の売上金額の平均値である一六三五万九五一三円の約二分の一相当額と約二倍相当額の範囲内としたものである。

(9) 不服申立又は訴訟係属中でないこと。

(二) 以上の抽出基準により抽出した同業者は、その業種、業態、事業所の所在地、事業規模等において、原告と類似性を有するうえ、その申告の正確性について裏付けを有する青色申告者であるから、これに基づき算出された数額は正確である。そして、右同業者の選定は、大阪国税局長が発した前記通達に基づいて前記税務署長が機械的に前記抽出基準に該当する者のすべてを抽出することによつて行われたものであるから、その選定には恣意の介在する余地はない。

したがつて、右同業者の平均所得率には、正確性と普遍性が担保されているから、これを用いて、原告の係争各年分の所得金額を推計したことには合理性がある。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1の事実及び主張は争う。

2  同2の事実は争う。

3  同3の事実中、(一)の売上金額中、原告の普通預金口座への振込金額が被告主張のとおりであること及び(三)の特別経費の金額並びに(四)の事業専従者控除の額については認めるが、(二)の算出所得金額については、その推計方法及び金額とも争う。

4  同4の事実及び主張は争う。

五  原告の反論

1  原告の係争各年分の事業所得金額は、次のとおりであり、その明細は、別表八記載のとおりである。

(一) 昭和五四年分 一八一万四二九八円

(二) 昭和五五年分 一九一万二三〇八円

(三) 昭和五六年分 一七三万二〇三一円

2  事業所得金額の内訳

(一) 売上金額

原告の係争各年分の売上金額は、被告主張の売上金額から、食券代等を除いた金額である。

(二) 一般経費

原告の係争各年分の一般経費は、昭和五四年分については実額であり、昭和五五年分及び昭和五六年分については、原告の右各年分の売上金額に、原告の昭和五四年分における一般経費二四五万一八二五円の売上金額一四四九万七二三四円に対する割合である一六・九一二パーセントを乗じて算出したものであつて、その金額は次のとおりであり、昭和五四年分の一般経費の内訳は、別表九記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 二四五万一八二五円

(2) 昭和五五年分 二七九万八三一六円

(3) 昭和五六年分 二八二万七〇九九円

(三) 給与賃金

原告の係争各年分の給与賃金は、次のとおりである。

(1) 昭和五四年分 九四四万一一一一円

(2) 昭和五五年分 一〇九七万六七〇八円

(3) 昭和五六年分 一一六〇万九三九九円

(四) 特別経費(駐車料及び家賃)及び事業専従者控除

原告が支払つた係争各年分の特別経費及び原告の係争各年分の事業専従者控除は、被告の主張額と同一である。

六  原告の反論に対する被告の認否及び主張

原告の反論1、2の事実中、被告の主張に反する部分は否認する。なお、原告主張の昭和五四年分の一般経費についての証拠には、原告の事業所の休日にあたる日に支払つた高速通行料金、駐車料や、原告の結婚式の費用の一部、さらにもつぱら私用で使つていた自動車の自動車税、ガソリン代等明らかに家事関連費にあたるものが含まれているし、また、原告の父にかかるしかも本件係争各年分以外の年度の事業税、原告の母の民主商工会の会費等、所得金額の計算上明らかに必要経費に該当しないものが多数含まれており、その一部が事業上の必要経費に該当するとしても、その具体的金額を確定できないし、また、従業員に支払つた給与賃金を記載したとする帳面についても、そこに記載された金額と、各従業員の市民税の申告額とが大幅に食い違うなど、その信用性は乏しく、結局、原告の昭和五四年分の一般経費及び係争各年分の給与賃金の実額の主張は、その証明がないといわなければならない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件各処分には、手続的違法がある旨主張するので、まず、この点について判断する。

1  証人吉塚典史の証言及び原告本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告の部下職員である吉塚事務官は、原告の係争各年分の所得税に関する調査のため、昭和五八年一月一七日、事前の連絡をすることなく、原告の仕事場所である尼崎市東海岸町所在の協和鉄工の工場に赴き、原告に会つて、原告の売上先、売上金額、従業員数等その事業概況を簡単に聴取したのち、係争各年分の売上金額、経費等についての帳簿書類等の提示を求めたところ、それらの書類はすべて民主商工会に預けてあるとの返答であつたため、同月一九日に再び来訪するので、それまでに右書類等を取り寄せておくよう話して、帰署した。

(二)  右吉塚は、同月一九日、再び原告を前記協和鉄工の工場に訪ねたが、原告から、依然、民主商工会に関係書類を預けているとの返答を受け、また、どういう書類を預けているのかを質問しても答えは得られなかつた。そこで、吉塚は、原告に対し、さらに調査への協力方を要請したところ、同年二月一二日まで調査を延期して欲しいと言われたため、同人は、それほど待てないので、被告の側で調査を進める旨告げて帰つた。

(三)  吉塚は、その後、原告の売上先である協和鉄工に対する調査を進める一方、同年一月二四日と同年二月八日にも、原告を協和鉄工に訪ね、民主商工会から帳簿書類を取り寄せたか否か、あるいは必要経費を実額計算できる資料を保管しているか否かを尋ねたが、原告は、その都度、調査理由を書面に記載することを求め、あるいは、帳簿書類は民主商工会に預けたままであるので、調査するのであれば、民主商工会に行つて欲しい旨告げるなど、調査に協力する態度が全く見られなかつたことから、以後、被告は、原告に対する取引先等に対する調査に基づき、本件各処分をした。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  ところで、所得税法二三四条に基づく質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、客観的に判断して具体的な必要性がある場合には、その相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられているものと解すべきである。

これを本件についてみると、成立に争いのない乙第二ないし第四号証によれば、原告が被告に提出した係争各年分の確定申告書には、所得金額及び各種控除の記載があるだけで、売上金額、必要経費等所得金額算定の基礎となる明細の記載が全くなかつたことが認められるから、本件においては、客観的に判断して質問検査の必要性を認めることができる。また、被告の部下職員が、最初は事前連絡することなく、原告を訪ねたことや調査の具体的理由を告げず、原告の求めた民主商工会に出向いての調査を拒否したことは税務職員の裁量に委ねられた権限の範囲内の行為であつて、これをもつて、右にいう社会通念上相当な限度を逸脱した行為とすることはできない。また、原告は、本件税務調査手続及び本件各処分が、原告の属する西淀民主商工会の弱体化を図る目的でなされた旨主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。

3  前記1の認定事実によれば、被告は、調査に対する原告の協力を得られなかつたため、原告の係争各年分の所得金額を実額によつて把握することができなかつたことが認められるから、右所得金額の算定を推計によつて行う必要性があつたものと認めることができる。

三  そこで、原告の係争各年分の所得金額について検討する。

1  原告は、鉄工業を営むものであることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一二号証、第一四号証の一ないし一三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第七ないし第九号証、第一五号証及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、大阪市西淀川区佃一丁目の自宅を事業所として「正忠鉄工」の屋号で鉄工業を営んでいたものであるが、その事業形態は、親会社である協和鉄工の専属下請(社内外注)として、毎日、原告が、尼崎市東海岸町にある協和鉄工の工場に従業員(係争各年分当時四名前後)を連れて出勤し、出勤時間、退勤時間は、協和鉄工のタイムカードで記録し、勤務時間中は、全面的に協和鉄工の管理下でその指示に従つて建設機械の組立、熔接等の作業をしていた。なお、このように原告らを直接管理し、報酬を支給する主体は、協和鉄工であるが、右協和鉄工は、その親会社である三和機工株式会社(以下「三和機工」という。)の専属下請会社であり、原告らの主たる業務は、三和機工の出した指図書等に基づき、三和機工の正社員と入り交じつて、三和機工の作業工場(当時、尼崎鉄工団地内に三か所、尼崎市北初島町に一か所あつた。)で、三和機工の受注した作業に従事することであつた。

(二)  協和鉄工から正忠鉄工に対する請負代金の支払は、仕事の出来高等に関係なく、また、熟練者、未熟練者にかかわらず、原告及びその従業員につき一人当りの日給の単価が決められており、残業、深夜勤務があれば、その分の手当を日給の一か月分に加算し、その合計額から、親会社で支払つている雇用保険・労災保険料及び原告らの食券代を差引いた金額を、月毎に、原告の預金口座に振込み、それを原告が、毎月正忠鉄工の事業所である原告の自宅で、各従業員に配分していた。原告は、右配分に当つては、各従業員によつて、多少、固定給に差異をつけ、また、協和鉄工あるいは三和機工の正社員にならう形で、皆勤(精勤)手当、家族手当、運転手当等を支給し、また、協和鉄工から受領した請負代金から、従業員一人当り月五万円位ずつを積立てて車のガソリン代その他の必要経費に充て、その残額を賞与として年二回ずつ支給していた。

(三)  正忠鉄工では、工事材料、工具等はもちろん手袋や、安全眼鏡等も、原則として、協和鉄工から支給されており、また、出張等の場合でも、車で出張した場合には、高速道路通行料やガソリン代を含む交通費についてはすべて実費を支給されていたが、手袋、安全靴等については、原告が、購入することもあり、また、出張の場合でも、近距離の場合には、精算の手間を省くため、原告において、高速通行料等の実費を負担する場合もあつた。なお、原告は、係争各年分当時、毎朝、正忠鉄工のワゴン車で、各従業員の家を回り、従業員を乗せて、協和鉄工に出勤していたが、肩書住所地から協和鉄工までの通勤には高速道路を使うことはなかつた。

(四)  右(一)ないし(三)のような原告方の事業形態は、係争各年分を通じ、特に変動はなかつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  被告は、原告の係争各年分の事業所得金額として、被告の把握し得た原告の係争各年分の売上金額に、同業者の平均所得率(売上金額から雇人給料賃金、外注費及び一般経費の各金額を控除した金額の売上金額に対する割合の平均値)を乗じて算出所得金額を求め、その金額から特別経費(駐車料及び従業員宿舎の家賃)及び事業専従者控除額を差引いた金額を主張するのに対し、原告は、係争各年分の事業所得金額として、被告主張の売上金額(但し、食券代等の差引額を除く。)及び右特別経費並びに事業専従者控除の金額は認めた上で、一般経費については、昭和五四年分は実額により、昭和五五年分及び昭和五六年分は、右各年の売上金額に、原告の昭和五四年分の一般経費の売上金額に対する割合を乗じて算出(以下「自己比率による経費推計」という。)し、雇人給料賃金(以下「給与賃金」という。)については、係争各年分とも実額を主張し、右各経費を売上金額から控除した金額を主張する。

ところで、原告の昭和五四年分の一般経費及び係争各年分の給与賃金の金額を実額で算出しうるならば、昭和五四年分の事業所得の算定にあたつて、売上金額から差引かれるべき右各経費の額を右金額とすべきことはもとより、原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の事業所得の算定にあたつても、原告の事業形態は、係争各年分を通じて特に大きな変動はなかつたことは前記1のとおりであるから、原告の昭和五四年分の一般経費の売上金額に対する割合から右両年分の一般経費を算出し(自己比率による経費推計)、それに右両年分の給料賃金の実額を加えた金額を右各経費の額として、右両年分の売上金額から差引く方法によるのが、平均値をとるとはいえ、なお業態、事業規模等が全く同一ではない同業者の平均所得率による推計の方法をとるよりも、原告の事業所得の算出方法としてより一層合理的であることは明らかである。

そこで、以下、まず、原告の昭和五四年分の一般経費及び係争各年分の給与賃金について、それを実額で認定することの可否及びそれが認定できる場合の原告の昭和五四年分の事業所得について検討する。

3  原告の昭和五四年分の事業所得金額

(一)  売上金額

原告の昭和五四年分の売上金額のうち、協和鉄工から、原告の預金口座への振込金額が一四四九万七二三四円であることは当事者間に争いがなく、また前掲乙第七号証及び弁論の全趣旨によれば、同年分の原告の売上金額から差引かれた雇用保険・労災保険料及び食券代の合計額は、四二万八四五円であることが認められ、右も売上金額に加算されるべきものであるから、原告の同年分の売上金額は、一四九一万八〇七九円となる。

(二)  一般経費

そこで、まず、原告の昭和五四年中の一般経費を実額で算定しうるか否かを、原告主張の各費目毎に検討する。

(1) 工場消耗品費 四万五九六〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、三、五によれば、原告は、昭和五四年中の工具、作業用眼鏡、安全靴、手袋等工場消耗品費として、山川産業株式会社(尼崎営業所)に対し、<1>同年四月二日に一万五九〇〇円、<2>同年八月三日に一万六二〇〇円、<3>同年一二月七日に一万三八六〇円、計四万五九六〇円を支払つたことが認められる。なお、甲第一号証の二、四、六、七によれば、原告は、ほかに、右会社より原告宛の、<4>同年七月二七日付、金額七二〇〇円の、<5>同年一一月一三日付、金額四六二〇円の、<6>同年一二月七日付、金額四六二〇円の、<7>同日付、金額四六二〇円の各納品通知票を所持していることが認められるが、原告本人尋問の結果によると、右<4>の購入代金は右<2>の支払金額中に、右<5>ないし<7>の購入代金は右<3>の支払金額中にそれぞれ含まれるものと認められるから、右各納品通知票の金額を右支払金額とは別個に経費として計上すべきものではない。

(2) 公租公課等 五万五九二五円

<1> 民主商工会費 一万一八〇〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一の二、五、七、一四、一六、一九、二〇、二三、二六、二九、三二によれば、原告がその父親正人名義で、昭和五四年中に西淀民主商工会に納入した正規の会費は、計一万一八〇〇円となることが認められ、右は、原告の事業の遂行上の必要経費にあたるというべきである。なお、甲第二号証の一の一、三、四、六、八ないし一三、一五、一七、一八、二一、二二、二四、二五、二七、二八、三〇、三一、三三、三四によれば、原告は、ほかにも右商工会より原告宛の昭和五四年分会費の領収書(甲第二号証の一の一、四、九ないし一二、一八、二二、二五、二八、三一、三四)、右商工会より松尾セツ子宛の同年分会費の領収書(甲第二号証の一の三、六、八、一三、一五、一七、二一、二四、二七、三〇、三三)を所持していることが認められるが、原告本人尋問の結果によれば、原告宛の領収書は原告の右商工会の青年部の会費分であり、松尾セツ子宛の領収書は原告の母の右商工会の婦人部の会費分であることが認められ、原告及び原告の母が、個人的に同会に入会し、正規の会費のほかに、青年部、婦人部等の会費を納入することまでが、原告の事業遂行上必要とは認めがたいから、右各領収書の金額は経費にあたらないというべきである。

<2> 自動車税 二万五二二五円

成立に争いのない甲第二号証の二の一ないし四、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、昭和五四年中に、自動車税として、<イ>原告の妹松尾光子名義の単車一台分七〇〇円、<ロ>原告の父松尾正人名義の単車一台分一一〇〇円、<ハ>右松尾正人名義の普通乗用車一台分一万三七五〇円、<ニ>右松尾正人名義の普通乗用車一台分三万四五〇〇円、計五万五〇円を支払つたことが認められるが、前記1の(三)認定事実及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、同年当時二台の普通乗用車を所有していたが、そのうち、従業員を同乗させての通勤に使つていたのはワゴンタイプの車(以下「ワゴン車」という。)であり、他の自動車(以下「普通車」という。)は、ほとんど原告あるいはその家族の私用に使つていたものであること、また、原告は、普通車を通勤用や出張に使用したことも時にはあつたが、一方ワゴン車も私用に使うことがあつたこと、原告方では、原告のほか、原告の母セツ子、妻早苗も運転免許を有し、右セツ子らも普通車を家庭の用事等で使うことがあつたこと、右松尾光子名義の単車は、原告が昭和五三年に協和鉄工に売却し、以後は常時三和機工の会社内に保管され、協和鉄工あるいは三和機工の社員らが利用していたこと、右松尾正人名義の単車は、協和鉄工の構内に置かれてはいたが、もつぱら原告の従業員である森美津雄及び森利光が仕事(工場間の移動、連絡等)に使つていたことが認められる。これらの事実によれば、原告の事業上の必要経費となるのは、ワゴン車と普通車に関する費用の合計額の二分の一と松尾正人名義の単車に関する費用だけであると認めるのが相当であるから、原告の同年分の経費たる自動車税の額は、右<ハ><ニ>の合計額の二分の一である二万四一二五円と右<ロ>の一一〇〇円との合計額二万五二二五円となる。

<3> 自動車重量税 一万八九〇〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の三によれば、原告は、昭和五四年中にワゴン車または普通車の自動車重量税三万七八〇〇円を支払つたことが認められるが、ワゴン車と普通車に関する費用の合計額の二分の一を原告の事業上の必要経費と認めるべきことは前記<2>で判示したとおりであるから、原告の同年分の事業用の経費は、その半額の一万八九〇〇円となる。

<4> 成立に争いのない甲第二号証の四の一ないし四によれば、原告は、昭和五四年中に、個人事業税計一一万五五〇円を支払つたことが認められるが、右甲各号証及び原告本人尋問の結果によれば、これらは、原告の父正人が、昭和四九年から昭和五二年分の右事業税を滞納していたものを、昭和五四年になつて、原告が支払つたものであることが認められるから、同年分の必要経費にあたらないことが明らかである。

(3) 通信費 一万七六一二円

<1> 電話代 一万七六一二円

成立に争いのない甲第三号証の一の一ないし四、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証の一の五ないし八によれば、原告は、昭和五四年中に自宅の電話代として、計八万八〇六〇円を支払つたことが認められるが、前記1認定の原告方の事業形態及びこの点に関する原告本人尋問の結果によれば、原告は、仕事上自宅の電話を使うこともあつたが、それは勤務先での打合せができない緊急の場合の従業員や勤務先への連絡に限られていて、その回数は余り多くなかつたことが認められるから、右電話代の大部分は家庭用のものと考えられ、事業に使われた割合は、せいぜいその二割位というべきであつて、原告の同年中の電話代中必要経費にあたる金額は、右八万八〇六〇円の二割相当の一万七六一二円となる。

<2> 郵送料等

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証の二の一ないし三、第三号証の三、四によれば、原告は、昭和五四年中に印紙代、郵送料(小荷物運賃等)として四二六〇円を支払い、また、電信為替で、一万円を送金し、その料金八三〇円を支払つたことが認められるが、これらの支出の目的が原告の事業遂行のためのものであることを認めるに足る証拠はないから、右金額を原告の事業上の必要経費と認めることはできない。

(4) 旅費交通費

<1> 高速通行料金

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし一五六によれば、原告は、昭和五四年中に、阪神高速及び日本道路公団の各高速道路の通行料金として、計五万六二五〇円を支払つたことが認められるが、前記1の(三)の事実に、右甲各号証、前掲乙第一四号証の一ないし一三及び原告本人尋問の結果を総合すると、別表一〇記載のとおり、右各領収書一五六通(甲第四号証の一ないし一五六)のうち、七六通は、日曜、祝日その他原告の公休日の日付で、自動車を仕事用に供したときのものではないこと、原告は、従業員を連れての協和鉄工への通勤には高速道路を利用していなかつたうえ、出張等の場合に高速道路を利用すれば、その通行料金は、領収書と引換えに協和鉄工から支払を受けられるようになつていたことが認められ、これらの事実からすると、原告が仕事上で高速道路を利用しながらその通行料金を協和鉄工に請求せず、自ら負担することは、極めて例外的な場合にすぎないと認められるところ(なお、原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五四年当時、肩書住所地の自宅が手狭であつたため、住吉公園の近くの友人宅に泊まり、そこから出勤するに当つて高速道路を利用したことがあつたことが認められるが、右事実のみから、右友人宅への宿泊及びそこからの通勤が事業の遂行上必要であるとまではいえない。)、右領収書のうちその例外的な場合にあたるものを特定することはできず、結局、右各領収書の金額を事業上の必要経費と認めることはできない。

<2> 駐車料

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の一五七ないし一六五、一六七ないし一七四によれば、原告は、昭和五四年中に駐車料として、計一万二〇〇円を支払つたことが認められるが、右甲各号証、前掲甲第二号証の二の三、四、乙第一四号証の一ないし一三、第一五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一六号証を総合すると、別表一〇記載のとおり、右各領収書一七通(甲第四号証の一五七ないし一六五、一六七ないし一七四)のうち、五通は、日曜、その他原告の公休日の日付で、自動車を仕事用に供したときのものではないこと、また右各領収書のうち四通(甲第四号証の一五七ないし一六〇)は、いずれも大阪国際空港駐車場の領収書であるが、原告の正忠鉄工では、同年中に、航空機を利用するような出張がなかつたこと、さらに右各領収書のうち五通(甲第四号証の一六一ないし一六四、一七〇)は、これに記載された車両の番号(五四九三)からみて、原告所有のワゴン車及び普通乗用車以外の車両の駐車料金に関するものであること、右各領収書のうち一通(甲第四号証の一六八)は、大阪厚生年金病院の駐車場発行のものであつて、原告あるいはその家族の通院の際のものである可能性が強いことが認められ、これらの事実によれば、右各領収書はほとんどが事業に必要な経費に関するものではないことが明らかであるうえ、前記1の(三)認定の原告方の事業形態、自動車の使用状況等に照らせば、原告がその事業遂行の上で、いかなる場合に駐車場料金を負担するのか不明であつて、その駐車場利用及び代金の自己負担の必要性についての的確な証拠はないから、結局、右各領収書の金額を原告の事業の必要経費と認めることはできない。

(5) 交際接待費 八万一八〇〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証の六、一一、一二によれば、原告は、昭和五四年中に、従業員との飲食関係の費用として計八万一八〇〇円を支払つたことが認められる。なお、甲第五号証の一ないし五、七ないし一〇、一三ないし一五によれば、原告は、<1>株式会社トーヨーエンタープライズの金額二万四〇〇〇円の領収書二通(甲第五号証の一、二)<2>阪急百貨店の金額五万九〇〇〇円の(甲第五号証の三)、<3>同百貨店の金額一万五〇〇〇円の(甲第五号証の四)、<4>同百貨店の金額二万四〇〇〇円の(甲第五号証の五)、<5>スナツクマリの同年四月二九日付金額一二万四二〇〇円の(甲第五号証の七)、<6>右マリの同年五月五日付金額二万五〇〇〇円の(甲第五号証の八)、<7>右マリの同年七月二五日付金額三万五〇〇〇円の(甲第五号証の九)、<8>右マリの金額二万九〇〇〇円の(甲第五号証の一〇)、<9>パブハウスモンシエリントンの金額四万五三六〇円の(甲第五号証の一三)、<10>かつぱ鮨の同年四月二九日付金額二万円の(甲第五号証の一四)、<11>エメラルドの同年五月二七日付金額二万八七七〇円の(甲第五号証の一五)各領収書を所持していることが認められるが、右甲各号証、前掲乙第一四号証の一ないし一三、成立に争いのない乙第一九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一七号証、原告本人尋問の結果によれば、右<1>、<7>、<8>、<9>は、いずれも領収書の宛名が「上様」と記載されていること、右<2>は、原告の結婚祝の、右<4>は、原告の長女の出産祝のそれぞれお返し品購入の領収書であり、右<3>は、ハンドバツク購入の領収書で、事業のための贈答用品とは考えがたいこと、右<5>、<6>、<10>、<11>は、日曜、祝日等原告の公休日の日付(右<5><10>は原告の結婚式の日付)であり、右<7>は、原告の労災による休業期間中の日付であつて、いずれも親会社の担当者等を接待した費用とは考えられないこと、原告は、スナツク喫茶マリへは家族とともによく飲食に行つていたことなどの事実が認められるから、これらの領収書の金額を原告の同年分の事業上の必要経費と認めることはできない。

(6) 損害保険料及び修繕費 一二万七四六〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第六号証、第七号証の一の一、二、第七号証の二によれば、原告は、昭和五四年中に、自動車の損害保険料、車検等の手続費用として計一五万〇二七〇円、また自動車の修繕費として、二回にわたり計一〇万四六五〇円、合計二五万四九二〇円を支払つたことが認められるが、原告の事業上の必要経費となるのはワゴン車と普通車に関する費用の合計額の二分の一とすべきことは前記(2)の<2>で判示したとおりであるから、必要経費は、右支払金額の二分の一である一二万七四六〇円となる。

(7) 消耗品費 一六万九〇〇八円

<1> ガソリン代 一六万九〇〇八円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の一六六、第八号証の一ないし一九、二五、二六、二八ないし三三、三五ないし三七、三九によれば、原告は、昭和五四年中にガソリン代として、計三三万八〇一六円を支払つたことが認められる(なお、甲第八号証の二七、三四、三八は、甲第八号証の一七ないし一九の領収書に対応する請求書であるから、この金額を加算すべきではない。)が、前記(2)の<2>で判示のとおり、原告の事業上の必要経費となるのはワゴン車と普通車に関する費用の合計額の二分の一とすべきであるから、その金額は、一六万九〇〇八円となる。

<2> 事務用品費

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第八号証の二〇ないし二四、四〇によれば、原告は、昭和五四年中に事務用品費として四万二六四〇円を支払つたことが認められるが、前記1認定のような原告方の事業形態に照らしても、また、この点に関する原告本人尋問の結果によつても、原告方でいかなる事務用品が必要であり、右各領収書記載の金額はそのどれに該当するのかが全く不明であるから、これらの支払金額を原告の必要経費と認める余地はない。

(8) 福利厚生費 一四万二九六〇円

成立に争いのない甲第九号証の一六ないし一八、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第九号証の一ないし一二、二〇ないし二二、二五、二六、二九、三〇、三三ないし三七によれば、原告は、昭和五四年中に、飲食代、慰安旅行用費用、手袋代等として一八万一一八一円を支払つたことが認められる。なお、甲第九号証の一三、一四、一九、二三、二四、二七、二八、三一、三二によれば、原告は、<1>株式会社ミツチエルアポロ事業本部の金額一万円の領収書二通(甲第九号証の一三、一四)、<2>東亜エレシヤツク株式会社の金額三四四〇円の(甲第九号証の一九)、<3>「むさし」の同年九月一五日付金額五七五〇円の(甲第九号証の二三)、<4>福美屋の金額一万五〇〇円の(甲第九号証の二四)、<5>プレイサロン女神の金額一万七五〇〇円の(甲第九号証の二七)、<6>クラブサロン太陽の金額二万九七〇〇円の(甲第九号証の二八)、<7>阪神メガネセンターの金額二万七〇〇〇円の(甲第九号証の三一)、<8>美春の金額七〇〇〇円の(甲第九号証の三二)各領収書を所持していることが認められるが、右甲各号証、前掲乙第一四号証の九、成立に争いのない乙第二一号証及び原告本人尋問の結果によれば、右<1>は原告の背広の、右<2>はスピーカーの、右<4>は寝具衣料の各購入代金であり、福利厚生費には該当しないこと、右<3>は祝日で原告の公休日の日付であつて、事業用のものとは考えられないこと、右<5>、<6>、<8>はいずれも日付の記載がなく昭和五四年中の費用か否か不明であるうえ、その宛先も「上様」であるか、またはまつたく記載がないこと、右<7>は原告が日常使用している近視用眼鏡の購入代金であることが認められるから、これらの領収書の金額を事業上の必要経費と認めることはできない。

また、前掲甲第九号証の五ないし一一、三三ないし三七、原告本人尋問の結果によれば、原告が支払つた右一八万一一八一円のうち、三万八四一一円(甲第九号証の五ないし一一)はデイスカウントスーパー「カイト」で買物をした際の代金であることから、右代金がすべて事業用の手袋の購入費用であるとは考えにくいこと、また、原告の支払金のうち三万八〇三〇円(甲第九号証の三三ないし三七)は、原告の自宅のすぐそばの酒類及び各種食料品等の販売店からの買物代金であることからすれば、右代金のすべてが事業上の必要に出たものではなく、家庭用の必要品購入代も含まれていると考えられることなどの事情が認められるので、原告の事業上の必要経費は右支払金額合計七万六四四一円の半分である三万八二二〇円(端数切捨)であると認めるのが相当である。

したがつて、結局、原告の同年中の必要経費たる福利厚生費は、一四万二九六〇円となる。

(9) 諸雑費 一万六三四七円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の六ないし一五、一八、二一、二二によれば、原告は、飲料代等として三万一二五円を支払つたことが認められる。なお、甲第一〇号証の一ないし四、一六、一七、一九、二〇、二三、二四によれば、原告は、<1>西淀川区役所、城東区役所の領収書六通(甲第一〇号証の一ないし四、一六、一七)、<2>アサヒ薬局の同年一二月三一日付金額一一一〇円の(甲第一〇号証の一九)、<3>阪急百貨店の金額一二〇〇円の(甲第一〇号証の二〇)、<4>日本赤十字社大阪府支部の金額三〇〇円の(甲第一〇号証の二三)、<5>阪神百貨店の金額三〇〇〇円の(甲第一〇号証の二四)各領収書を所持していることが認められるが、右各号証、前掲乙第一四号証の一三、乙第一九号証、成立に争いのない乙第二〇号証、原告本人尋問の結果によれば、右<1>は区役所に支払つた各種証明書等の交付手数料の領収書であり、右<2>は原告の公休日の薬局からの購入代金の、右<3>、<5>は百貨店の催事場での買物による、右<4>は日本赤十字社への寄付金の各領収書であつて、いずれも原告の事業とは関係のないものであることが認められるから、これらの金額を事業上の必要経費と認めることはできない。

また、前掲甲第一〇号証の六ないし一三、乙第一五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一八号証、原告本人尋問の結果によれば、原告の右支払金額三万一二五円のうち二万七五五五円は、自宅で購入していた牛乳等の代金であることから、その中には家庭用の消費分も含まれていたものと認められるから、右のうち必要経費はその半分である一万三七七七円(端数切捨)とするのが相当である。

したがつて、原告の同年中の諸雑費の金額は、一万六三四七円となる。

(10) 減価償却費

原告は、昭和五四年中の減価償却費が、二三万四七八三円である旨主張するが、右金額を認めるに足る証拠はない。

(11) 以上のとおり、原告の昭和五四年分の一般経費の額は、前記(一)のとおり売上金額から差引かれた食券代等が四二万八四五円、工場消耗品費が四万五九六〇円、公租公課等が五万五九二五円、通信費が一万七六一二円、交際接待費が八万一八〇〇円、保険料及び修繕費が一二万七四六〇円、消耗品費が一六万九〇〇八円、福利厚生費が一四万二九六〇円、諸雑費が一万六三四七円の合計一〇七万七九一七円となる。

(三)  給与賃金

(1) 原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一二号証によれば、原告が昭和五四年中にその従業員に支払つた給与賃金は、計九四四万一一一一円であり、その内訳は、別表一一記載のとおりであることが認められる。

(2) もつとも、右甲第一二号証のノート(以下「賃金ノート」という。)によれば、昭和五五年五月以降、従業員各人の固定給(日給)の額が同一でないのに、同年七月分については、全員の、同年八月分及び昭和五六年九月分の西馬省三と森美津雄の、昭和五六年七月分の森美津雄と森利光の各残業手当が、いずれも同額となつていること、また昭和五六年一〇月分は、前月分に比し、各人の残業時間数は同じか増加しているにもかかわらず、残業手当の額は、反対に減少していること、また、原告本人尋問の結果によれば、原告の父松尾正人は、昭和五四年八月当時病床にあり、就労できなかつたことが認められるのに、右賃金ノートには同人が同月中に八日間稼働した記載がなされていること、さらに成立に争いのない乙第二二ないし第二六号証によれば、原告の従業員の係争各年分の住民税について課税標準の基礎とされた収入金額は、いずれも年間六六万円余から一九一万円余までであつて、右賃金ノートの記載を大幅に下回つていることなど、その記載の信用性には疑問がないでもない。

(3) しかしながら、前記1の(二)に認定の事実及び原告本人尋問の結果によれば、原告方での残業手当の計算方法は、基本的に協和鉄工から回つているタイムカードの記載に基づいて、原告が各従業員の残業時間数を計算し、それに各従業員の固定給から時間当たりの残業手当の額を算出するという方法によつていたものであるが、途中、原告が、原告の父の医療費を正忠鉄工の売上から支出することを各従業員に相談した際、その見返りのような形で、残業手当については、協和鉄工の方で作成している正忠鉄工の各従業員の給与明細書に記載されている金額をそのまま渡すよう要求され、原告もこれに応じたという経過があつたうえ、原告が協和鉄工より振込を受ける金額の配分方法は係争各年分を通じて厳密に一定の計算方法に従つて行われたとも認められないことや右賃金ノートに記載されている本給及びその他の各種手当については、原告の父正人に関する記載を除いては、特に不自然、不合理な点も見受けられないことなどをも考慮すれば、右残業手当の記載や正人に関する誤りの記載だけから、右賃金ノートの記載が全面的に虚偽であるとしてその信用性を否定することはできない。さらに、各従業員の住民税について課税標準の基礎とされた収入金額が右賃金ノート記載の額より相当低額であることについても、原告本人尋問の結果によれば、原告方では、各従業員に対する給与の支給にあたり、源泉徴収を行わず、各人が税務署に税務申告をすることとしていたことが認められるから、その申告の際、各従業員において、実際に受領している給与額を下回る額を申告した可能性も強いと考えられること、また、証人吉塚典史の証言によれば、原告は、税務調査に来た吉塚典史に対し、原告方の従業員の日給は、一日八〇〇〇円位であり、その賃金は年間二〇〇万円ないし三〇〇万円位である旨述べていたことが認められ、右原告の述べる給与額は、基本的に、右賃金ノートの記載と一致するものであることなどの事実からすると、右住民税に関する収入金額の点から右賃金ノートの記載の信用性を否定することもできない。

(四)  特別経費(駐車料及び家賃)

原告は、別表七記載のとおり、昭和五四年中に月決め駐車料及び従業員宿舎の家賃として計三九万円を支払つたことは当事者間に争いがない。

(五)  事業専従者控除

原告の昭和五四年中の事業専従者控除額が四〇万円であることは当事者間に争いがない。

(六)  したがつて、原告の昭和五四年度分の事業所得金額は、別表一二記載のとおり、売上金額一四九一万八〇七九円から、一般経費一〇七万七九一七円、給与賃金九四四万一一一一円、特別経費三九万円を控除し、さらに事業専従者控除四〇万円を差引いた三六〇万九〇五一円であるというべきである。

4  原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の事業所得金額

(一)  売上金額

原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の売上金額のうち、協和鉄工から原告の預金口座への振込金額が、昭和五五年分については一六五四万六三三二円であり、昭和五六年分については一六七一万六五二九円であることは当事者間に争いがなく、また前掲乙第八、第九号証及び弁論の全趣旨によれば、右両年分の原告の売上金額から差引かれた雇用保険・労災保険料及び食券代の合計額は、昭和五五年分が四四万五五三〇円、昭和五六年分が五一万一八一九円であることが認められるところ、右も売上金額に加算されるべきものであるから、結局、原告の昭和五五年分の売上金額は、一六九九万一八六二円、昭和五六年分の売上金額は、一七二二万八三四八円となる。

(二)  一般経費

原告の昭和五四年分の一般経費は、前記8のとおり一〇七万七九一七円であり、右のように、原告の同年分の一般経費の額を実額で算定しうる以上、原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の一般経費の額も、自己比率による経費推計で算出する方が同業者の平均所得率による推計よりも合理的と考えられることは前記2のとおりである。

そこで、原告の昭和五四年分の一般経費の売上金額に対する割合を算出すると、七・二三パーセントとなり、これに原告の昭和五五年及び昭和五六年の各売上金額を乗じて、右両年分の原告の一般経費の額を算出すると、昭和五五年分が一二二万八五一一円、昭和五六年分が一二四万五六〇九円となる。

(三)  給与賃金

前掲甲第一二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告が昭和五五年及び昭和五六年に支払つた給与賃金額は、昭和五五年分が一〇九七万六七〇四円であり、昭和五六年分が一一六〇万九四〇三円であつて、その各従業員別の内訳は、別表一一記載のとおりであることが認められる。

(四)  特別経費(駐車料及び家賃)

原告は、別表七記載のとおり、月決め駐車料及び家賃として、昭和五五年中に四五万九〇〇〇円、昭和五六年中に一四万八〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

(五)  事業専従者控除

原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の事業専従者控除額がいずれも四〇万円であることは当事者間に争いがない。

(六)  したがつて、原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の事業所得金額は、別表一二記載のとおり、昭和五五年分が売上金額一六九九万一八六二円から一般経費一二二万八五一一円、給与賃金一〇九七万六七〇四円、特別経費四五万九〇〇〇円を控除し、事業専従者控除額四〇万円を差引いた三九二万七六四七円、昭和五六年分が売上金額一七二二万八三四八円から一般経費一二四万五六〇九円、給与賃金一一六〇万九四〇三円、特別経費一四万八〇〇〇円を控除し、事業専従者控除額四〇万円を差引いた三八二万五三三六円というべきである。

四  よつて、本件各処分は、原告の右事業所得金額の範囲内でなされたものであつて、いずれも適法であるというべきであり、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 及川憲夫 裁判官 徳岡由美子)

別表一

課税の経緯

<省略>

別表二

事業所得金額の計算

<省略>

別表三

<省略>

別表四

同業者の算出所得率表

(昭和54年分)

<省略>

別表五

同業者の算出所得率表

(昭和55年分)

<省略>

別表六

同業者の算出所得率表

(昭和56年分)

<省略>

別表七

<省略>

別表八

<省略>

別表九

<省略>

別表十

<省略>

別表十一

<省略>

別表十二

<省略>

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